
それは、新東京から大井県に引っ越してきて、初めての夏休みのことでした。
転校生のぼくを遊び(いたずら)に誘ってくれるのは、ケンイチ、ようすけ、マキオの3人組でした。
終業式も終わり、3人と下校しました。
ーほい、コウ。夏休みはどーすん。
ーえ、どーすんって?
ーおいら、新東京いってみてえんだ。なあ、ケンイチ、ようすけ!
ーそーず!コウ、つれってえーな。
(えー、めんどくさいし、おまえら旅費ねーだろ)
ー考えておくよ
ーやってぜー!
そんな、話をしながら時計塔そばの長い階段のところまで着ました。
すると、ようすけが階段を指差しながら言いました。
ーぐぱちちしようぜ!
ーへ、なにそれ?
ーなーん?コウはとけいからきたくせにそんなこともしらねな。
ージャンケンみたいなもんね。
ーグーはグリコで3歩階段を登れる。パーはパイナップルで6歩・・・
ーアー知ってるよ!チョキでチヨコレイトで6歩進めるんでしょ。
ーそーそ!
ーで、でももうひとつのチは??
ーここいらでは、これがもうひとつのチだあ。
ケンイチが右手を出す。薬指と人差し指を折り曲げ、親指、小指、中指を伸ばしている。
いままでのジャンケンでは見たことがない。
ーそんなの知らないや。
ーそーうかや?このあたりではこれチーって言うねな。
ーへー。(あほか)
ーで、チーはちみもうりょうで7歩さ。
ーで、それはグーチョキ、パーに勝てるの、それとも負けるの?
ーこれは、全部に負けだあよ。
ーえ、じゃつかえないじゃん??
ーこれは4人ジャンケンのときだけなんだ。
ーそーそ!他の3人があいこのときに、残りの一人がチーを出すとチーの勝ちよ。
ーへー!
ーで、チーで勝ったやつが、負けた3人のうち一人を指名して7歩進めさせるのさ。
ーえ、じゃやっぱり損するじゃん。
ーまー得はせんよね。でも・・・
ーでも、なに?
ーまー、うわさじゃけども・・もうりょうに連れて行かれるとか・・
ーへーーー(あほらし)
ーまあ、めったにそろわんし、4人でじゃんけんこの辺じゃやらないようにしてるからね。
ーへー(田舎あるあるだな)。やってみようぜ!
ーえーでも・・・
ーだいじょうぶだよ!チー出さなきゃいいんじゃん。
ーそんだな
うなずく3人。
ーじゃいくんぞ!
(じゃ、最初にチーを出して脅かしてやろう)
ーおー!
ー頭はグー!じぃけんほい!
コウがチーで勝ってしまった。
ーあー!チー出すなや!
ーびびんなよ。じゃようすけ!いってや!
ーえ、おれかや!
ーげ!指名したら、もう逃げれないんぞ!!
ーとにかく行けや!ようすけ!たのむ
ーおまえが行かないとおれらも連れて行かれてまう。
ようすけは泣きながら、7歩階段を上がった。
ーおーげさだなあ。なんにもおきないじゃん。かえろぜー!
ーそいがいーな。
ようすけ以外の3人が踵をかえした瞬間、轟音とともに時計塔から巨大な鐘が落下した。